水に沈む木 - 圧縮ヒノキ材 -

 木は水に浮くもの・・・
 誰しもが、折れた枝や小木が、川を流れていたり、湖・海で浮いている光景を目にします

 木が水に浮く事象から考えられる木と水の相性について、
◆ 木の構造
◆ 抗菌性
の観点から
簡単にお話したいと思います。

そして、ヒノキ材を圧縮すれば、ヒノキの良さが倍増?することも・・・

ヒノキの内部は穴ぼこだらけ?
 云うまでもなく木材は、広葉樹材と針葉樹材に大別されます。

  ・ケヤキ、タモなどは広葉樹。
  ・ヒノキ、スギ、マツなどは針葉樹。
広葉樹は一般に密度が高く硬く、針葉樹は密度が低いので柔らかい材質であり、造作材に良く用いられます。
 構造組織での2種類の樹材の違いは、「広葉樹」は道管(導管)と数多くの種類の細胞で構成されています。 一方、「針葉樹」は、仮道管(かどうかん)と呼ばれる細胞が木の約95%を構成していて、根から葉へ水分を送る通導作用と樹体の支持作用を持っています。

◇  ヒノキの細胞はどうなってるの?顕微鏡写真で見てみましょう。
 仮道管で構成される針葉樹の木材内部は、細胞が生きている時の原形質が失われ、内部は空洞となり、細胞壁だけが残っています。

 そして、早材と晩材で密度に違いがあります。
「早材」・・・樹木が成長する時期である春から夏の時期で、成長に必要な水分を運ぶために多くの隙間が作られ、壁も薄くなっています。

「晩材」・・・夏から秋の時期は、成長が緩やかで壁が厚く,隙間を減らして樹木の重みを支える組織となります。
 ※仮道管以外の構成細胞は、柔細胞とエピセリウム細胞です。
(画像:走査電子顕微鏡で見るひのき材の構造)

◇  細胞壁は、「セルロース」、「ヘミセルロース」、「リグニン」と呼ばれる物質で構成されています。この細胞壁などの木部繊維だけの比重はというと、約1.5とされているので“水に沈む”ことになります。でも、多くの木は水に浮かんでます。それは、木の内部の構造によるわけです。

 

水に沈む圧縮ヒノキ材
ヒノキ材を圧縮することは、仮道管の細胞壁を押し潰して、細胞壁の間にある空気や水分を押し出すことです。
 水に沈む圧縮ヒノキ材を作るためには、仮にヒノキの比重0.4であれば、10cmの厚みを4cm(圧縮率60%)にすることによって、計算上、水と同じ比重1にできます。
 換言しますと、圧縮率の設定を変更さえすれば、木の比重を変えられ、強度などを任意で決めることが可能となります。ただし、圧縮できる範囲は、試料材の材質によって限度がありますが。。。

木と水の関わり
木は、切削が簡単・熱伝導率が小さい・温もりがある素材として長年使用され続けています。ただ、腐りやすい材料である一面があります。
 では、なぜ木は腐るのかと云えば、答えは簡単で「腐朽菌という細菌が、木の細胞を食い壊す。」からです。この細菌は、“温度”、“酸素”、“水分”、“栄養分”の4条件がそろった環境下で繁殖します。木の内部には、細胞壁などにセルロースなどの栄養素があって、菌が繁殖するリスクを持っています。
日常生活において、菌に対抗するには、例えば、お箸、スプーンなどを使用後に水洗いをして、布巾などで十分に水分を拭き取って乾かす必要があります。
 つまり、4要素でコントロール可能なのは、木の内部に余分な水分を溜めないことです。その点でウレタンなどの塗装を施したりします(ただ、塗装は、木肌に触れられずに木の味わいを損なうという面があります。)。
 防かび、防菌対策は、風通しを良くして、「水」を必要以上に木の内部で抱えないことです。

 

ヒノキ材が水に浮く理由
◇ ヒノキの比重といいますと、部位(心材・辺材)などによって違いはありますが、大体0.4程度とされ、比較的軽い材質といえます。
 顕微鏡写真でお分かりのとおり、ヒノキは仮道管の気孔が多いんです。空気の孔が多ければ多いほど、木の繊維の密度は低くなり、比重が小さくなります。
一方広葉樹は、道管以外に多くの木部繊維の細胞があることから、空洞が少なくなっています。なので密度が高く、比重も比較的大きくなっています比重が最も高い樹種は、リグナムバイタ(比重:約1.2)で、水に沈みます。
(画像:広葉樹(クリ材)、顕微鏡写真は「兵庫県立農林水産技術総合センター・森林林業技術センター様」のご許諾を頂いた写真です。)
針葉樹の仮道管は、道管のようにパイプ状になっておらず、小さな袋が無数に存在します。袋には孔(壁孔)があり、水分は孔を伝って葉っぱに届けられます。
 ヒノキ材は、この細胞壁の間にある多くの気孔が浮輪の役割りを果たして、水に浮いています。

カビや腐朽菌に強い理由
ヒノキ材自体、抗菌作用があるカジノール類を多く含んでいます。
 加えて、特筆すべき圧縮のメリットは、180℃の高温熱処理で圧縮を行う結果、ヘミセルロースからフルフラールという化合物が生成されることです。このフルフラールは、通常のヒノキ材には含有されていません。
※ホカホカになった焼きいも、焙煎したコーヒー豆の甘焦げた香りが、糖分が加熱され生成されたフルフラールの匂いです。
優れた抗菌性・・・ “フルフラール体質”
フルフラールは、防カビ性・抗菌性に富んだ成分なんです。
 ですので、カビが発生し易い湿気を多く含む場所(お風呂場・台所など)では、ヒノキ材の抗菌性に加えて、フルフラール効果が、腐朽菌、カビ類などの発生をより一層抑制してくれます。
 さらに、圧縮工程のなかで、腐朽菌が欲しがる細胞壁などに含まれる糖分(セルロースなど)の一部がプレスによって外部に排出されます。
圧縮は水の侵入を防ぐ・・・ “筋肉質体格”
◇石膳や掬膳などのカトラリーは、水に沈むほど高い比重にまで圧縮した材料で作っています。それは、圧縮によって細胞密度を高めて、内部の空気を少なくするとともに、水の侵入を防ぐためです。
 ですので、木を腐らす要件の酸素と水分の量が少なくなっており、カビ菌・腐朽菌などの活性を抑制できています。

木の製品は、湿気のある場所で使うと、カビが生えたり、ヌルヌルしたり、腐り易いからという理由で、使いたいけれども使われ難くなってしまいました。けれども、木の中には抗菌性が高い成分を持つ木がたくさんあります。そして、圧縮材という付加価値を持つ材木があります。
 ヒノキの香り・触り心地感を有機的に楽しみながら、健康にも安全な木として、水のある場所で使って貰えるプロダクトをより多く作っていければと思います。「水に沈むほど圧縮された木は、水に強い木です。」